サステナブルな宿を選ぶということ|心地よさと、その土地の未来

サステナブルな宿を選ぶということ|心地よさと、その土地の未来
自然と調和する宿で過ごす滞在のイメージ

ホテルやリゾートを選ぶとき、立地、客室、景色、食事、価格など、比べるポイントはいくつもあります。

そこにもうひとつ、「その宿が土地や環境とどのように関わっているか」という視点を加えてみる。

サステナブルな宿を選ぶことは、旅先で何かを我慢することではありません。 むしろ、その土地の食材を味わい、地域の素材や建築に触れ、自然環境を活かした空間で過ごすことが、滞在そのものの魅力につながっている宿もあります。

では、旅をする側から見たとき、「サステナブルな宿」とはどんな宿なのでしょうか。

サステナブルな宿とは、何を大切にしている宿なのか

「サステナブルホテル」「エコリゾート」といった言葉を目にする機会は増えました。

ただ、客室に紙製のストローが置かれていることや、プラスチック製品を減らしていることだけで、その宿全体の取り組みを判断することはできません。

宿泊施設の運営には、電気、水、空調、清掃、リネン、食材、アメニティなど、多くの資源が使われます。

さらに、新しいホテルを建てるのであれば建築そのものが周辺環境へ与える影響もありますし、地域の人を雇用するのか、食材や家具をどこから調達するのかによって、その土地との関係も変わります。

つまり、サステナビリティを見るときには、一つの取り組みだけではなく、

  • 建物をどのようにつくり、使っているか
  • エネルギーや水をどのように使っているか
  • 廃棄物をどのように減らしているか
  • 食材や備品をどこから仕入れているか
  • 地域の人や文化とどのような関係を築いているか
  • 自然環境や生態系へどのように配慮しているか

といった、宿全体の運営を見る必要があります。

客室で気づく、小さな変化

宿泊者にとって分かりやすいのは、客室の中にある変化です。

以前は当たり前だった使い捨てのペットボトルがなくなり、ガラス瓶や給水ボトルが用意されている。

小さな使い切り容器に入っていたシャンプーやボディソープが、詰め替え式のボトルへ変わっている。

タオルやシーツも、毎日自動的に交換するのではなく、宿泊者が必要に応じて交換を選べる。

客室に用意された給水用ボトル

一つひとつは小さなことです。

けれど、客室数の多いホテルで毎日続ければ、水、洗剤、プラスチック、輸送、廃棄物など、さまざまな部分に関わってきます。

重要なのは、宿泊者に不便を強いるのではなく、滞在の快適さを保ちながら、必要以上に資源を使わない方法へ変えていることです。

新しく建てるだけではなく、残されてきた建物を使う

サステナビリティは、客室の備品だけに表れるものではありません。

ホテルそのものが、どのようにつくられているかにも注目してみたいところです。

ヨーロッパをはじめ各地には、古い邸宅、修道院、倉庫、工場、農家など、以前からその土地にあった建物を改修し、ホテルとして使っている例があります。

新しい建物をつくることだけがホテル開発ではなく、すでにある建築を残しながら新しい役割を与える。

その結果、昔の石壁や梁、窓、庭などが滞在空間の一部となり、その土地の歴史を感じられるホテルになることもあります。

サステナブルだから魅力的なのではなく、土地に残ってきたものを生かした結果として、そのホテルでしか味わえない空間が生まれている。

そんな宿もあります。

エネルギーや水は、目に見えにくいからこそ確認したい

宿泊者からは見えにくいものの、ホテル運営で大きな割合を占めるのが、空調、給湯、照明、プール、ランドリーなどに使うエネルギーや水です。

そのため、宿によっては太陽光などの再生可能エネルギーを取り入れたり、建物の構造や自然換気を活かして空調への依存を減らしたりしています。

水についても、節水設備だけでなく、雨水の利用、排水の再利用、庭や植栽への給水方法など、地域の環境に合わせた取り組みがあります。

特に島や乾燥地域では、水は無限に使える資源ではありません。

美しい海や自然がある場所だからこそ、その環境を使いすぎずにホテルを運営できるかという視点は、宿選びの一つの判断材料になります。

土地のものを食べることも、サステナブルな滞在になる

旅先で宿の姿勢を最も身近に感じやすい場所のひとつが、レストランです。

遠くから運ばれてきた食材だけではなく、地域で採れた野菜、魚、肉、チーズ、果物などを料理に取り入れる。

季節によってメニューを変える。

地域の農家や漁師、生産者と継続的に関係を築く。

畑で収穫された野菜のイメージ

こうした取り組みは、環境負荷だけの話ではありません。

旅行者にとっては、「この土地に来たからこそ食べられるもの」に出会う機会になります。

朝食に並ぶ果物やパン。
夕食で使われる魚や野菜。
食後に出てくる地元のチーズやワイン。

ホテルのレストランであっても、世界中どこでも同じものを食べるのではなく、その土地とのつながりを感じられる。

それは、宿泊者にとっても旅の質を高めてくれる部分です。

家具やアメニティにも、その土地との関係が見える

客室に置かれている家具や食器、テキスタイル、アメニティにも目を向けてみると、その宿が地域とどう関わっているかが見えることがあります。

地元の木材や石を建築に使う。
地域の職人がつくった家具や器を取り入れる。
その土地で作られている石鹸や化粧品をアメニティとして使う。

こうしたものは、単なる装飾ではありません。

旅行者が宿泊することで、その土地の技術や仕事へお金が循環する仕組みにつながることがあります。

同時に宿泊者にとっても、世界中にあるホテルチェーンと同じ客室ではなく、「ここに泊まっている」と感じられる空間になります。

地域の人が関わっているかを見る

サステナビリティというと環境問題ばかりに目が向きますが、地域社会との関係も重要です。

ホテルが地域の人を雇用しているか。
地元の生産者や事業者と取引しているか。
その土地の文化を、単なる観光向けの演出として扱っていないか。

旅行者が支払った宿泊料金が、どこへ流れていくのか。

すべてを宿泊者が把握することは難しいものの、ホテルのウェブサイトや施設紹介を読むと、地域との取り組みについて具体的に説明している宿もあります。

「地域を大切にしています」という一文だけではなく、誰と何をしているのかまで書かれているか。

そこを見るだけでも、その宿の姿勢は少し分かりやすくなります。

自然素材を取り入れた宿の空間イメージ

「エコ」という言葉だけで選ばない

サステナビリティへの関心が高まるにつれ、ホテルの紹介でも「eco」「green」「sustainable」といった言葉をよく見かけるようになりました。

ただ、その言葉だけで宿を判断する必要はありません。

具体的に何をしているのかを見ることが大切です。

  • 使い捨て製品を減らしているだけなのか
  • エネルギーや水の使用にも取り組んでいるのか
  • 食材や備品を地域から調達しているのか
  • 自然環境の保全に関わっているのか
  • 地域の雇用や文化にも目を向けているのか
  • 取り組みについて具体的な情報を公開しているのか

サステナビリティを大きく掲げていなくても、昔から地域のものを使い、必要以上に資源を消費せず、小規模に営業を続けている宿もあります。

反対に、「環境にやさしい」という言葉が目立っていても、具体的な内容がほとんど分からない場合もあります。

ラベルではなく、実際に何をしているのかを見る。

宿を選ぶ側にも、そんな視点があってよいと思います。

快適さとサステナビリティは、反対ではない

サステナブルな旅というと、「少し不便でも我慢する」という印象を持つことがあります。

しかし、宿泊施設での取り組みの中には、滞在の快適さと両立しているものも少なくありません。

自然光を活かした客室。
風が通る建築。
地域の素材を使った空間。
その日に採れた食材を使った食事。
周囲の景観を壊さない低層の建物。

こうしたものは環境への配慮であると同時に、宿泊者にとってその場所らしさを感じる体験にもなります。

サステナビリティは、豪華さを削ることではありません。

むしろ、何に価値を置くかを変える考え方に近いのかもしれません。

自然の近くに泊まるなら、その自然との関係を見る

海辺、森、山、砂漠、島。

自然そのものが魅力になっているホテルでは、その景色を守ることと宿泊施設の運営は切り離せません。

建物が景観へどう溶け込んでいるのか。
敷地の植物をどのように扱っているのか。
海や珊瑚礁、生態系への影響をどう考えているのか。

美しい自然を「ホテルから見える景色」として消費するだけではなく、その環境を残すために宿が何をしているかを見る。

特に自然を目的に旅をするなら、宿選びの中に入れておきたい視点です。

自然の中で静かに過ごす滞在のイメージ

旅行者にできることは、それほど難しくない

サステナブルな旅をしようとすると、何か特別なことをしなければならないように感じるかもしれません。

けれど、旅行者側でできることはもっとシンプルです。

  • 宿を選ぶときに、そのホテルの取り組みを少し読んでみる
  • 必要のないタオルやリネン交換を毎日求めない
  • 給水設備があれば利用する
  • 地元の食材を使った料理を選んでみる
  • 地域の店や市場にも足を運ぶ
  • 自然の中では、その場所のルールを守る

すべてを完璧にする必要はありません。

一つひとつの行動よりも、「この場所ではどんな取り組みが行われているのだろう」と少し関心を持つことから始めれば十分です。

「どこに泊まるか」は、旅先との関わり方を選ぶこと

ホテルを選ぶことは、単に一晩寝る場所を決めることではありません。

どんな建物を使う宿に泊まるのか。
どんな食材を使うレストランで食べるのか。
その土地の人や自然と、どのようにつながっているホテルを選ぶのか。

宿泊先を選ぶことで、その地域との関わり方も少し変わります。

景色が美しい。
客室が心地よい。
食事がおいしい。

そのうえで、「なぜこの宿はこの場所にあるのだろう」と考えてみる。

そこで使われている素材や食材、働く人、周囲の自然に目を向けると、宿泊体験そのものがもう少し立体的に見えてきます。

サステナブルな宿を選ぶということは、正しい旅をすることではありません。

自分が心地よく過ごす場所と、その土地がこれからも魅力的であり続けること。
その二つを、宿選びの中で一緒に考えてみることです。